勤務先の高校で、図書館広報に掲載するエッセイを1,000字程度で書くよう依頼されました。電車の中で本を2~3冊読んだ上、今朝一気に書きました。
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 近年、音楽が人に与える影響について様々な研究がなされている。医療現場で音楽療法が取り入れられ、音楽大学でも専門に学ぶ事ができるようになった。記憶と音楽は結びつく事から喪失した記憶の蘇生に役立てられている。手術前や術中に音楽を聞かせることで心理状態を安定させ、術後の経過に効果を発揮したという事例も多数報告されている。
 また、最近では多くの脳科学者がピアノを弾くことは脳に良いと唱えている。認知症予防にも大きな効果が期待できるといわれる。東大生のアンケートで、子供時代にピアノを習った学生が全体の40%という結果も報道された。高い学力を誇る私立のK中学校では、全員がピアノ必修というカリキュラムが導入されている。
自分自身の事を振り返ると特別な脳力を開発できたという自覚は殆どないのだが、気長にじっくりと取り組み続けなければ上達できず、様々な表情を持つ音を一つ一つ大切に育み、自分の内面と向き合いながら仕上げていく作業はとても価値のあるものだと感じる。
 初心者は左右の指を別々に動かす事も容易ではない。少し段階が進めば、音符の動きを先読みしながら、指の動きと音の高低のイメージを繋げていけるようになる。さらに進めば、音量の変化やバランス、強調させたい箇所と背景を表したい箇所、息遣いなどの様々な工夫とコントロールをしながら、自分の好みの表現方法を紡ぎだせるようになる。音楽の持つリズムや表情と共時し一体感を味わえれば、演奏する事で大きな喜びと感動を体験できる。
ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、コロンビア大学、スタンフォード大学・・・など、数々の一流大学で音楽や芸術系の授業の充実化を図っている。どのような授業を行っているのか、その目的、そして実際にどのような効果があるのかを調べてみたところ、実に興味深く考えさせられる内容だった。
学生は、美術・文学・建築などと絡めて広義に芸術を捉え、活発に議論を交わしている。演奏経験のある学生は専門的な実技指導が受けられ、世界トップクラスの国際コンクールで入賞する学生もいるようだ。リサイタル経験、室内楽やミサ曲の演奏など、多方面の演奏形態の経験もできる。ソルフェージュ、音楽理論、和声、聴音、音楽史などの授業も充実していて、日本の一般的な音楽大学での専門教育よりも余程内容が濃いと言わざるを得ない。
芸術を愛し学び続けた人達は社会に出た後、周囲と協調し合い様々な問題点に向き合いながら創意工夫をし、プロジェクトを進めていく事において優れた力を発揮するという評価を得ているようだ。就職でも芸術系の単位を多く取得した学生は優遇される事が多い。
日本での音楽専門教育は、狭義の専門分野だけの学習に留まっている傾向が強く、多岐にわたる芸術のテーマで積極的に議論が交わせる学生は殆どいないのではないだろうか。
「礼楽刑政」という中国で生まれた四字熟語がある。礼節・音楽・刑罰・政治、を表し、これらを有効に使う事で平和で秩序のある国ができる、という意味である。是非、視野を大きく持ち、芸術が社会に大きく貢献していく事を願って止まない。

参考文献
・ハーバード大学は「音楽」で人を育てる 菅野恵理子著
・ピアニストの脳を科学する 古屋晋一著