「耳コピ」という言葉があります。耳で聴いて覚えて演奏する練習は音感トレーニングになる、と言われています。確かに、ゲーム感覚で楽しみながら音感の訓練が出来て、良い面もたくさんあります。

しかし、先生に弾いてもらって覚えて弾く、という事を繰り返していると、楽譜を見ても眺めているのみで理解が出来ないまま、長い間問題放置となってしまう危険もあります。
また、レベルが上がってきて曲が長く難しくなると、記憶だけで正確に再現する事は困難になってきます。

感覚で捉える事は勿論素晴らしいのですが、人は印象に強く残る部分とインパクトがない部分では、例え同じ音でも違って聞こえる場合があります。人の感覚は不安定で、気分や体調等の条件によっても変化します。
弾いているうちに音ミスや、和音の音が変化(ドミソがドミだけになる等)してきたり、音価や休符がアバウトになってきたりもします。
伝言ゲームという遊びがありますが、同じ文言を伝えている積りが変化してきてしまう例は想像に難くないと思います。

やはり、歪みのない正しい音感を育成するためにも、楽譜を正確に読む事は非常に大切です。

楽譜・音・鍵盤の位置・運指が繋がると譜読みは速くなり、新しい楽曲に取り掛かるのが億劫でなくなると進歩も速くなります。

生徒達の音感を育成するには、教える先生の聴音能力や和声感が非常に大切かと思います。
生徒が音を間違えた時に確実に気づける事が必要なのは勿論ですが、何故その音が響きが良くないのか、その都度生徒にわかる言葉で簡単に説明してあげると、その小さな積み重ねが後に大きな成果を生むと考えております。

例えば、C-durで左手の伴奏が属七の和音の時、ソ・シ・ファになったりソ・レ・ファになったり、という事がよくあります。どちらでも変な響きがしないのに何故その都度違うのか、先生が説明してあげられると、ハーモニーを聴いて味わう事ができるように育っていくと思うのです。

和声がわからずに何となく綺麗、というだけで演奏しているより、何故綺麗なのか、何故その瞬間に作曲家がその音を使用したのかが理解できると、演奏する面白さが断然違ってきます。作曲家の凄さには驚くばかりです。

音感は耳コピだけに頼って訓練するのではなく、是非楽譜をしっかり理解してほしいと思います。

最初に習った時に真似と耳コピに頼る習慣が出来てしまった生徒は、なかなか楽譜を正確に見ようとしない傾向があります。
日常生活では、大人でもわざわざ時間がかかり面倒な事は避けて、早く楽に出来る方法を選ぶかと思います。子供たちがそうなるのも当然です。そのような生徒達は、例え一生懸命に楽譜を見て音を読んで弾いても、次の瞬間には何の音だったか忘れてしまい、数分前に弾いた音ももう一度考えないと何の音だったかわからなくなってしまうのです。

「え、何故?さっき弾いたばかりなのに!」と責めてはいけません。
アルト譜表やテノール譜表等のハ音記号が使われた楽譜は、先生方やプロでも数えないと読めない方も多いかと思います。響きと楽譜が繋がらないと、譜読みは出来ないのです。

私の経験上、譜読みが得意な生徒の方が音感もあり、練習が好きで上達も速いです。
譜読み訓練用の問題集をやってみても、問題は正しく解答しても弾くとまた数えたくなる、という事が多いです。楽しみながら取り組めそうな問題集を何種類か常備し使っていますが、それだけでは足りない様子です。

そこで皆さんに譜読みが得意になってもらいたい、と思い、対策を考えました。
耳コピや、音名を書いてから練習したがる生徒達には、レッスン中に5分間だけでも初見の訓練をしてみようと思います。
初歩の教材で、譜読み訓練に使えそうな楽譜を数種類、楽器店で購入しました。
少しずつ実施していき、一人一人の反応を見て工夫しながら進めていきます。